テキスト文章

下品な記事を書かないと死ぬ、と組織に脅されて仕方なく書いています。

男、あちこちのヒラヒラしたものをめくりながら登場

「てんぷりゃ・・・てん、ぷりゃ。」
「てん、胃もたれ。腹痛。下痢、嘔吐、耐えがたい苦しみ、安らぎと平穏の死、新しい生命の誕生の謎、家系図を遡ったところにある心残りの染みや、虫食った雲間から落ちる光の届かない場所の湿り気。そういうわけで、今回のテーマは夏の暑さです。夏の暑さの居場所を探しましょう。ここかな?」

壁掛けカレンダーをめくる。

「カレンダーの7と9の間に、ハエが飛び回ったあとのような8月がはさまっていたはずだが見つからない。それでさっきからさがしているんだ」

「これかな」

真っ黒なスーツにウィンドブレイカーを羽織った男が突っ立っている。そのまぶたをめくる。

「それは私のまぶたです」

「あ、はい。すみません...はずかしい。何しているんだ、おれ。なんでまぶためくった。穴があったら入りたい穴を掘ろう。でも、おかしくないか。ふつう、まぶたをめくられたら、おいなにをするんだやめろ!とはいえども、それは私のまぶたです だななんて。まるでほんとは自分のまぶたじゃないような物言いだった」
はっとして
「ほんとは、まぶたじゃないんじゃないのか。もしかするると。もしかするとあいつもひとじゃなんじゃないか。ひとじゃないなにかの、まぶたじゃないなにかをめくったのかおれは。ここもここではなくて、どこかなにかの予選リーグのぎすぎすした選手控え室で、おれはまだ生まれてもいないひとではないひとのまびたではないまぶたをめくっては、はじまってもいない予選リーグをすこしでも有利にしようとしているのではないか」

「野菜炒めを食べた方がいいですよ」

「誰だお前は」

「そんなだから胃もたれして耐えがたい苦しみを体験するんです。生野菜には寄生虫がいます。だから」

「炒めるのか」

「ええ灰になるまで」

「それじゃ野菜炒めじゃなくて灰だ」

「はい」

「誰だお前は」

「壁の染み。私にも教えてください。夏の暑さの居場所を」